
今年の夏がこんなに暑いだなんて、誰が予想できたでしょう。とにかくひたすら暑かった!真夏の個展は初めてだったけど、期間中ずっと、灼熱の銀座!そんなこんなも含めて、今回はいろいろと、初めて尽くしの、個展となりました。いつもと場所が違うこと、そして銅版画での個展の1回目であること。などなど。
自分の名前よりもテーマを大きくしてもらったことで、雰囲気が伝わりやすかったかもしれない。平凡ファンタジィ。

工房の先生方や先輩たちにも初めて観てもらった。いろいろ感想をもらったんだけど、M先輩のビンゴな分析に笑ってしまった。「これは平凡ファンタジィじゃなくて、ぐらぐらファンタジィだよ」って!たしかにぜんぶグラグラしている。出てくるモチーフが、つなわたりだったり、はしごだったり、お皿や家や箱や船の荷物も、グラグラするほど積んである。ロボットも不安定。頭からなんか生えてる人たちも、実際に頭があんなだったらグラグラするに違いない。あー本当だ!「古い思い出」というのを描いたときは、グラグラしたところに立っているのを意識して描いたけど、それ以外は無意識だった。日常と非日常の間、妄想と現実の間を、つねにバランスとりながら生活しているから、そういうぐらぐらな心理がでちゃったんだね。作品には何かしら、作った人の内面が見えるものだけど、自分の作品や自分のことって、言われないとわかんない。あーだけど、そうです。そのとおりです!ゆらゆらの、ぐらぐらなんです!


金曜日は、ちょっといろいろありました。いつも個展を観てくれているN子さんの計らいで、尊敬している永井一正先生が、なんと足を運んで下さったのです。そんな時に限って、わたしは不在にしていた。それもだいぶお待たせしていたらしい。メッセージも残されていた!きゃー、どうしよう!まさか本当に来てくださるとは思っていなかった!これはいろいろ申し訳ない。ひとことご挨拶しなければ、気が済まない。1分でいいですからとお願いして、かつてお世話になった1丁目の会社まで早足で行って、これまたN子さんの計らいで、先生のお部屋に通してもらったのでした。会社にいた頃は遠い存在で、一度もお話したことなんてなかったのに、20年もたって、こんなことがあるなんて。人生って不思議。まずはごめんなさいを言って、先生の「生命のうた」という版画集の作品と文章に感動して、休んでいた版画をもう一度始めたことや、なにやらいろいろと、もうなにを喋ったか忘れちゃった。本を見た時の感動が蘇ってきたのと、穏やかに微笑んでわたしの話をきいてくださるご本人を目の前にしたら、涙が出てきちゃって、もうたいへん。何やってんだかわたしは!

先生は「正面の壁のあたりの作品が充実していましたね」(↑ココらへん)とか「浮遊感が宇宙的ですね」とか「続けるのはいいことです」とか穏やかに話される。先生の優しさが、ありがたくて、それもまた感動しちゃったのでした。そしてN子さんに感謝!そんなこんなで、わー!っとなりながら、また8丁目まで歩いて戻り、月光荘に帰ってきて、お茶飲んでひといき。コースターが古くてカワイイね。ふぅー。

一週間の間に、久しぶりの友達に、会うこともできたし、ランチしたり、お茶飲んだり、ビール飲んだりもできた。いつも来てくれる人がまた来てくれたり、月光荘にお買い物に来て、ついでにフラっと入って観てくれた人が、思いがけず、楽しんでくれたりした。難しい顔して、プロフィールとにらめっこして、ぐるっとしばらく作品を観て帰る、画廊めぐりのおじさま方が、帰り際に「楽しかったですよ」とかボソっと言ってくれたりすると、ちょっと嬉しかったりする。作品になんの主義主張もないから、批評するまでもないのだろう。単純に楽しんでもらえるものにしたかったから、何か伝わったのならそれでいいや。

それと過去の個展とは大きく違う展開のひとつがツイッター。暑い中、本当に来てくれたり、感想をつぶやいてくれたり、遠くから励ましてくれたり、もう、みんなステキぃ!自由意志で繋がれる特性は、リアル世界とは違って、義務がないからいいですね。バーチャルがリアルになる再会とか。やっぱり声が聞こえるのっていい。本当の表情って大事。そして、つぶやきをやめたはるこちゃんも来てくれたね。初めて会えて嬉しかったよ!喜んでくれたようだったし、目がキラキラしてた。これが好き!って思うこと、あきらめずにやっていこうね。わたしもそうする!

思い立って、後半は銅版の原版を持って行った↑。知らない人にはこれも面白かったみたい。あと初日に来た人に過去の作品が見たいって言われたので、過去4年分のテンペラの作品集も。
毎回、作風がコロコロ変わるので、次がどんなものになるのか、自分でもよくわからない。でもこのへんで、ようやく、この人は絵を描く人なんだということを、周りがわかってくれるようになった。15年がかりです。それでもまだまだ、ちっぽけなものしかできません。そして未だに頼まれもしないのに、ただただ描いているだけです。今までも今回も作品を買ってくれた人をがっかりさせたくないし、だからやめちゃいけないって思うし、面白いからやめられない。版画は買いやすい値段だというのも手伝ってか、今回は小さな蔵書票も含めて、20点くらい嫁に行きました。ありがたいことです。わたしがしなければならないのは、作品をつくること。これがなければ始まらないのです。だからまた、見る人も、そして自分も、楽しめるようなもの、心に小さい灯りを灯すようなささやかなもの、作っていきたいです。

そして今後は作品を発表するだけじゃなくて、版画の特性を活かして、もう少し展開させていけたらいいと思っています。本にしたらいいのにと、いろんな人に言われたけど、どうしたらいいのかわからないから、またそういうことも考えていきたいと思っています。できるかどうかわからないけども。じっくりと、あたためていきたい。そしてもっと、自分らしい作品の方向性を定めていきたい。
とにかく、みなさん、どうもありがとうございました!これを励みにまた頑張ります!次は、銀座がもっと寒い時にしますから。街も一緒に楽しむなら、イルミネーションの頃がいいかな。終わったらもうすでに、次のことを考えているのでありました。暑い夏の銀座が、たちまち思い出になってゆきます。